プログラム04

徹夜は、涼やかにしなさい。

広告制作の現場に、徹夜はつきものだ。それがいいかどうかの議論は、今は置いておく。いや、少しだけ触れようか。長時間労働を是正するための取り組みは今の広告業界にとって優先課題だということに異論はないが、広告会社の社会的位置付けが変わらない限り長時間労働はなくならない。会社側は、22時以降消灯するなど、表向きの対策を講じるだろうが、それがイコール長時間労働を低減するための試みにならないことは、君も含めて業界人はみんな知っている。広告会社がクライアントにNOと言える日が来てはじめて、長時間労働問題は動き出すに違いない。まぁ、そんな日は来ないだろうが。百歩譲って仮にそうなっても、クリエーティブ職は長時間労働を続けるだろう。そもそも長時間労働という言葉自体がそぐわない。労働している認識が多くのクリエーターにないだろうから。

プレゼン前夜の徹夜

話を戻そう。君は広告の仕事に徹夜がつきものなのは既に知っているし、それがブラックではないと分かっているからコピーライターになった。徹夜になってしまうのは、いろいろな事情があるが、たとえば大きなプレゼンの前日は特異日といえよう。かつて大貫卓也、岡田直也といったスターを擁した博報堂の宮崎チームは、プレゼンの前には必ずチーム全員で泊まり込んでいたと某業界誌で読んだことがあるが、他所の会社やチームも似たり寄ったりだ。プレゼン当日は、A社もB社もC社も、みんな徹夜明けの顔で、クライアントに集合する。この徹夜は、疲れない。プレゼンに勝つ、という目標があるからアドレナリンが大量に放出され、時間が経つのがなんと早いことか。

クライアント都合の徹夜

ただ、徹夜になる理由はこれだけではない。むしろ、この徹夜はどちらかというと年間に数えるくらいしかないだろう。多いのは自己都合ではなくクライアントの都合による徹夜。今日中に下版しなければ掲載を落としてしまうのに、なかなかクライアントのOKが出ない。返事をただひたすら待つ。刻々と時間が過ぎてゆく。ようやく電話がなる。OKではない。部長から表現の変更を要求されたという担当者からの悲痛な連絡だ。すでに深夜0時をとっくに過ぎている。朝までに修正案を送らなければならない。さてどうするか。ディレクター以下クリエーター全員がテーブルに集まる。会議は踊る。ほとんどが、このケースだといっていい。この徹夜は、はっきり言って堪える。

しかし、こんな時だからこそ、君の真価が問われる。メンバー全員が憔悴した顔をしていても、いやだからこそ、平然としなければならない。それがどうしたとでも言うように、爽やかな朝のような顔で、リラックスして取り組まなければならない。君がチームの最年少だろうが何だろうが、座の中心になり、先輩たちに影響を与えなければならない。コピーライターに元気がなければ、いいクリエイティブは生まれない。泣いても笑っても、朝までに修正案をつくらなければならないのだから、肚をくくり、弱音を吐かず、眉間にシワを寄せず、取り組むと決める。その覚悟が、君を一流に導く。君は反論するだろう。口で言うのは簡単ですね、と。たしかに、言うは易く、行うは難し。

まず、つくり笑いをしてみよう

だから、練習が必要だ。このような状況に巻き込まれたら、まず、つくり笑いをしてみよう。マイナス感情が湧き起こっても、拳を握りしめ、無理に微笑んでみる。引きつった笑いでもいい。目が笑ってなくても構わない。君の、その必死の笑いが、場の空気を変える。そして心の中で、「涼やかに、軽やかに」と何度も唱えよう。この言葉は、おまじないだ。一流になるためのキーワードだ。事あるごとに、つぶやく習慣をつけよう。この経験を繰り返せば、君は自然に微笑む人になれる。

Grace under pressure.

Grace under pressure.どんな逆境のもとでも、つねに優雅さを失わなかった、と語り継がれているJ.F.ケネディ第35代米国大統領のように。

最後に、織田信長のエピソードを紹介して今回のレッスンを終えよう。出典は吉川英治の『新書太閤記』。時は永禄三年(1560年)5月18日、桶狭間の戦い前夜。

〜按じるに信長は、今が逆境の谷底と見えた。おもしろや逆境。しかも相手は大きい。この大涛こそ、運命が信長に与えてくれた生涯の天機やもしれぬ〜

そして夜半、人間五十年、下天のうちを較ぶれば、夢まぼろしの如くなり…と能『敦盛』を舞ったという。

今日は、ここまで。

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