その日、優也くんには、泣きたくなるような出来事が、次から次へと起きた。
登校の途中で大きな犬に吠えられ、ビックリして逃げようとしたら、つまずいて、かすり傷。学校は遅刻し、担任の先生にさんざん怒られた。3時間目の算数は、テストで8点しか取れず、クラスで最下位。5時間目の体育では、優也くんだけサッカーの試合に参加させてもらえず、ボール拾いをやらされた。そして、放課後…。同じ4年3組にいる大好きな花絵ちゃんが、2組の陽太くんにバレンタインのチョコレートをプレゼントしているところを、ぐうぜん見てしまった。優也くんは胸がドキドキして、かけ足で家に帰った。
その夜、優也くんは、自分がみじめで情けなくて、なかなか眠れなかった。
次の日は土曜日で学校はお休みだった。優也くんは昨日のことを少しでも忘れようとして、朝早く起き、近所の一丁目公園にひとりで出かけた。優也くんは幼稚園のころから、悲しいことがあると、いつもこの公園に来て、ブランコにすわり、遠くに見える山を陽が落ちるまで見ていたのだった。
優也くんは公園に着くと、いつものようにブランコに腰かけた。そして、遠くの山を見ようとしたその時、とつぜん目の前に、きれいな大人の女の人があらわれた。優也くんはおどろいて、思わず立ち上がった。
「はじめまして、優也くん」
女の人はそう言うと優也くんに近づき
「私は、パピプペポイント事務局のパピイといいます。よろしくね」
「パ、パプペピポイント?」
「はい。今日は優也くんのパピプペポイントが1万点になったので、お知らせにきたの」
優也くんは口を開けたまま、ただただ女の人を見つめるばかり。
「いきなりそう言われても、困るよね。変なネーミングだしね。パピプペポイントとは、悲しいこと、つらいことがあった時、神様からもらえるポイントのことなの。まぁ、ちょっとした気まぐれで始めたことなんだけどね。それで、悲しいことやつらいことが、たくさんあった人ほど、ポイントがいっぱいたまるわけ。優也くんも、今までたくさんあったでしょ。そのぶんポイントがたまっていたの。それが昨日でちょうど1万点になったの」
「????????」
「ちなみに、昨日は優也くんにとって、ポイント5倍デーだったの。小学4年生で1万ポイントをゲットできる人はなかなかいないんだけど、昨日のポイントがきいたみたいね」
優也くんは女の人の言うことが、なんとなくわかりかけてきた。この人、女神様…?
「でね、ここからが本題。1万ポイントたまった人は、特別なプレゼントがもらえるの。3つの中から1つを選んでもらうことになっているんだけど、それを決めてもらいに、私はここに来たのよ」
「プレゼント? 3つの中から1つ?」
「そうよ。よ〜く聞いてね、一度しか言わないから。
まず、1つ目。算数が得意科目になれる。
2つ目、クラスで一番背が高くなれる。
3つ目、大好きな人と両思いになれる。
さぁ、どれにする?」
算数が苦手で、背がクラスで一番低く、花絵ちゃんに片思いの優也くんにとって、どれも夢のような話だ。でも…。優也くんの目に浮かんできたのは、昨日、花絵ちゃんが陽太くんにチョコレートをプレゼントしているシーンだった。
週明けの月曜日、優也くんがいつものように学校に行くと、廊下に人だかりができていた。よく見ると、まん中には花絵ちゃんと陽太くんがいて、みんなから「両思いっ、両思いっ」と、からかわれていた。下を向いて嬉しそうに照れているふたりを、優也くんは遠くから見つめ、そして、右手をギュッとにぎりしめた。それはまるでガッツポーズのように見えた。
同じ頃、雲の上では、パピイが神様に報告しているところだった。
「優也くんのポイント特典は、本人の希望で花絵さんに移されました」
「うんうん」と、つるつる頭の神様は目を閉じてニコニコうなずきながら聞いていた。
「というわけで、優也くんは現在0ポイントになりますが、ルールにより、1ヵ月後に特別ポイント5万点が与えられます。もちろん本人には話していません。でも、本当にいいんですか? たとえ決まりでも、小学生に5万ポイントはちょっと多すぎるんじゃないかと私は思うのですが。あっ、ちょっと神様、聞いてます…?」
神様は、満足そうな笑みを浮かべながら、すやすや気持ち良さそうに眠っていました。