タクシー運転手に未来はあるか?

AI時代にタクシー運転手は生き残れるか?

相談

横浜の大手タクシー会社に勤務している50代の男性です。ズバリお尋ねします。人工知能が車を運転する、いわゆる自動運転の時代が来れば、タクシー運転手という職業はなくなる、と言われています。会社の上司は、そんなのはまだまだ先の話だよと言って笑いますが、実感として、そうは思えません。権太坂さんはどう思いますか?

回答

2年前、知り合いのタクシー乗務員Aさんにタクシー業界の今後について、訊いたことがあります。※ちなみに、運転手ではなく乗務員と正式には言うそうですが。すると・・・「実は、タクシーの仕事を辞めようと思っています」。Aさんの口から、衝撃の言葉が飛び出しました。そして、しばしの沈黙の後、Aさんは静かに語り始めました。「タクシー乗務員として、このごろ痛切に感じるのは、タクシーの運転ほど人工知能向きの仕事は他にないと思うんです。人間は、どんなに優良なベテランドライバーでも、違反するし、うっかり事故も起こす。すべての道を知っている訳ではないし、知っていたとしても間違える。事故や工事による渋滞情報もリアルタイムに分からない。疲れれば(いや疲れていなくても)休憩をとる必要がある。食事もしなければならない。病気をしたら働けない。一方、人工知能は、プログラミングさえちゃんとしていれば、事故も違反も起こさない。疲れない。休憩の必要もない。何時間でも運転できる。最短ルートもすぐわかる。食事もとらない。病気もしない。組合もつくらない。あなたがタクシー会社の経営者なら、どちらを選びますか?」。「いやいや、ちょっと待ってください。そうは言っても、人間による、ぬくもりのあるサービスを求めている人がたくさんいるんじゃないですか?」。「ATMがある今、銀行でお金を降ろすのに、わざわざ窓口に行く人いますか? ETCを搭載しているのに、高速道路の出口で、有人の料金ゲートでお金を払う人、いますか? 会社でも点呼のたびに言われるんですよ。無人タクシーの時代が来ると言われているけど、恐れなくていい。接遇さえちゃんとやっていれば生き残れる・・・と。こんな言葉も虚しく響きます。人間がそこにいれば、最低限の感じの良さは求められますが、高級ホテルのような洗練されたサービスまでは求められていないんです」。「だとしてもですよ、人工知能による無人タクシーなんて、ずっと先の話じゃないですか」。「いや、それが。もうすぐ目の前まで来ているんです」。

ここで、ここ最近報道された無人運転関連の動きをまとめてみました。

「米政府は(2016年9月)19日、自動運転車に対する初の包括的な指針の概要を公表した。15項目からなる安全評価の枠組みで、安全性に配慮しつつ、試験走行を進めるグーグルやウーバー・テクノロジーズなど米企業が先行する技術の普及を後押しする狙いだ。」(2016年9月21日 朝日新聞)

「東南アジアの配車アプリ運営最大手グラブは23日、自動運転タクシーの配車を始めた。自動運転技術を持つ米ベンチャー、ヌートノミーがシンガポールで実験中の車を使う。(後略)」(2016年9月24日 朝日新聞)

「自動運転車の普及策などを話し合う主要7カ国(G7)の交通相会合が23日、長野県軽井沢町で始まった。人の手を借りない「完全自動運転」の実現に積極的な米国が主導権を握ろうと動く一方、段階的に進めたい日本は慎重姿勢を崩していない。(中略)ただ、少子高齢化が進む日本でも完全自動運転の利点は潜在的に大きい。IT大手ディー・エヌ・エー(DeNA)は20年の東京五輪に合わせ、完全自動運転のタクシー事業の開始をめざす。(後略)」(2016年9月24日 朝日新聞)

「ホンダは22日、人がまったく運転する必要のない『完全自動運転』について、米ネット検索大手グーグルと共同研究を始める、と発表した。ホンダが提供する車にグーグルの人工知能(AI)などを搭載。米国内で実走実験を繰り返し、自動運転のノウハウを共有する。」(2016年12月22日 朝日新聞)

「トヨタ自動車は(2017年1月)4日、米ラスベガスで開幕する家電・技術見本市『CES』にあわせ、ドライバーとやりとりする人工知能(AI)を中核に据えたコンセプトカー『コンセプト・アイ』を初公開した。一部機能を搭載した車両を使い、数年内に日本国内で公道実験を始める。(後略)」(2017年1月5日 朝日新聞)

「日産自動車は(2017年1月)5日、米航空宇宙局(NASA)と協力して、運転者が操作しない『完全自動運転車』の事故を、遠隔操作で防ぐ技術を開発すると発表した。米ラスベガスで開催中の家電・技術見本市『CES』でカルロス・ゴーン社長が明らかにした。(後略)」(2017年1月6日 朝日新聞夕刊)

「米グーグルは(2017年1月)8日、欧米自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)と共同で開発した自動運転機能付きのミニバンを公開した。自動運転の研究で先行するグーグルが、自動車メーカーと車両を共同開発したのは初めて。公道での実験を今月後半から、米アリゾナ州とカリフォルニア州で始める。(後略)」(2017年1月10日 朝日新聞)

ここ最近とは言っても、これらすべて2〜3年前の情報です。こうして見ると、たしかに、人工知能による無人運転の時代は目前に迫っているようですね。携帯電話が急速に普及したように、こうした動きはアッと言う間に広まるでしょう。江戸時代の駕籠担ぎは人力車の車夫に取って代わられ、車夫はタクシー運転手に取って代わられた。そして、タクシー運転手は人工知能に取って代わられる。旅客事業の歴史は繰り返す。歴史の流れは誰にも変えられません。

もし日本全国にいる約37万人のタクシー乗務員が一斉に失業したら、国内にどれだけの衝撃が起きるかを想定したシナリオが存在するという噂を聞いたことがありますが、真偽のほどは確かではありません。ところで知り合いのAさんですが、その言葉の通り2019年3月某日、所属するタクシー会社に辞表を提出しました。これで答になったでしょうか?